どきどき
まだ手に入れていない。
前フリの段階が、失われている。
手に入れる前のドキドキが、薄まっている。
安すぎる。
中国や、東南アジアに、生産拠点が移ったが為に、特に電化製品が安すぎる。
以前は、ビデオでも20万円を越えるモノも、平気で存在した。
テレビも10万円を切るモノは、かなり小さく安上がりなモノだった。
それで、お金を貯めた。手に入れるまで、時間が相当かかった。
その間ずっとドキドキして、夢にまで出てくる。そんなコトが、実際にあった。
欲しかった電化製品が、自分の家に来た時のソワソワ感。
夢じゃない。本当に来たんだという、あの小躍りしたくなる気持ち。現在は、おそらく皆無。
インターネットで、カートに入れるに合わせて、指先にちょっとチカラを入れるだけ。
ハンコと代金を用意して、実際に来たモノを受け取るだけ。
あのドキドキも、小躍りも、するスキマがない。めんどくさそうに、梱包を解き、取り出すだけ。
そんな自分に、あれ?と思う。こんなんで良かったのかと。ナニか違うと。
確かに商品は手に入っている。それなりに嬉しいし、気持ちも悪くはない。
でも、ナニかが足りない。こんなに良いモノを手に入れたのに、ナニかが足りない。
昔はこんなんじゃなかった。こんなに良いモノを手に入れたら、もっと違っていた。そう気づかされる。
現在は、5万円以下でも、結構良いモノが手に入る。20万円あれば、かなりのモノが揃ってしまう。
揃ってしまうので、ドキドキが入る隙がない。ソワソワ感や、小躍りしたくなる高揚感が無くなってしまった。
ネットでは、すぐ手に入る。情報も、モノも。
それは一昔前に比べると、格段に質も機能も高く、大満足できる。
でも、あいだの手に入らない期間が、無くなってしまっている。
そりゃ草食系にもなる。動物園の動物のように、いつもエサが与えられてしまうと、本能は押し殺される。
旭山動物園の行動展示のように、”本来の姿”に近いというのは、重要かもしれない。
これからどんどん、すぐに手に入る状況は進んでいく。
手に入らない時間は、短くなる。それは、文明の進化。逆戻りは出来ないし、するべきでもない状況。
ではどうしよう。
必要でなくても、あえて作っていくコトは出来る。
ネットなどではとくに、中身だけで前フリが少ない。
ネットは情報をやり取りするので、実は前フリには一番向いているメディア。
もっと、前フリにチカラを注いだ方がイイ。
確かに前フリでは、直接お金は入らない。でも、ソワソワ感は作れる。
ドキドキ、ソワソワ、そして小躍りするあの高揚感は作れる。
簡単に手に入ってしまう時代だからこそ、手に入らないあの楽しさを、構築していくべきと思う。
今の若いヒトは知らない。これからもっと、知らない世代が増える。
あのドキドキを知らない世代の為に、私たちが、手に入らないあの高揚感を作りあげる必要があるように思う。
ネットは特に、ドキドキが足りなさすぎる。直接的すぎる。
もっと、前フリを。もっと欲しがらせるコトを。
買おうか、買うのをやめようか。その迷いも、実は楽しい。それを伝えて行く責務がある。
ドキドキは、おたのしみ。手に入れるまでに、どれだけ欲しがらせるか。それがこれから求められる。お楽しみは、手に入れるまでの期間のコト。